歴史的考察と提言
債権は譲渡できるものなのか?
そもそも、債権とは譲渡できるものなのか? と論じられたのは古くはローマ法に遡ります。ローマ法の初期では、債権・債務関係は特定の人と特定の人との間でのみ存在するものであり、債権者が変更すると、債権はその同一性を失うものと考えられていました。また、わが国においての民法起草時前の債権の譲渡性については、明治9年制定太政官布告「証文譲り」によると証書を書き替えなければ権利は移らなかったと規定されていました。
このように国内外の法解釈の変遷とともに債権譲渡は論じられてきました。しかしながら、世界各国の近代民法では、等しく債権の譲渡性を認めています。
欧米における売掛債権譲渡商品の歴史
14世紀後半、イギリスにおいて売掛債権を買い取り資金供給をしたり、売掛債権の支払保証をするファクターとよばれる仲介業者がおこなったファクタリングが売掛債権を利用した金融の始まりとされています。実際には、当初は商品ファクターで、のちに売掛債権をもっておこなう金融ファクターに発達しました。イギリスにおけるファクタリングは、前払いはせずに売掛先から支払があった場合にクライアントに支払うに過ぎないものだったようです。
現在おこなわれている形式のものは、米国で19世紀末から20世紀初頭に開発されました。しかしながら、当時においても、売掛先に公然と譲渡の事実を通知するファクタリング方式は受け入れられず、歴史的には繊維取引の分野でのみ、発展し受け入れられたに過ぎませんでした。一部のわが国の風潮のように、繊維業界以外は売掛債権を譲渡するような企業は経営危機に瀕しているものと解されていました。
この米国式ファクタリングが生まれた同時期に、売掛債権担保融資が生まれました。
売掛債権担保融資は、1904年シカゴにある百科辞典の販売業者が考案しました。日本で初めて当社が商品化した96年前のことでした。ファクタリングが売掛債権を償還請求なしに買い取るのに対し、売掛債権担保融資は純粋な金銭消費貸借がおこなわれ、借主は常に借入金を返済しなければならない方式です。当初はファクタリングと同様売掛先に通知式でおこなうことを考えたようでしたが、やはりクライアントの心理的抵抗にあい黙示型になったようです。
すなわち、ファクタリングは債権譲渡が公然と債務者に通知されおこなわれるのに対し、売掛債権担保融資は債権譲渡が債務者に黙示におこなわれ、債権回収も借主が自己の責任と名のもとにおこない、借主は貸主に返済するのです。これを信託的譲渡といいます。
わが国における売掛債権譲渡商品
1960年代に、欧米では米国式ファクタリングや売掛債権担保融資の売掛債権譲渡商品が発達し、それをおこなう企業は巨大な金融会社に成長していきました。わが国においては遅れること10年、1970年代に入り、都銀系や大企業系のファクタリング会社が米国型のファクタリング会社を目指し設立されました。(第一勧銀ファクタリング、石川島ファクタリング等)。
米国型のファクタリングは、
- 現在及び将来の売掛債権を買い取る
- 債権の管理回収
- 取引先の信用調査
- 信用危険の引き受け(償還請求権なし[Non-recourse]が基本だが償還請求権あり[With recourse]もある)
- その他事務処理代行
などが主な業務です。しかし、今日までわが国におけるファクタリングは欧米のように発展してはいません。その原因は商慣行や法律上の問題が考えられますが、大きくは三つあります。
まず第一に、信用調査部門の立ち遅れが大きいといわれています。日本のファクタリング会社の信用調査部門は、債務者の信用危険を引き受けるまでの調査能力はありません。ファクタリング会社の中には米国型のファクタリングをおこなっている企業もありますが、多くは手形割引や取引先から売掛債権情報をもらっておこなう、一括ファクタリング方式の擬似的なものです。
第二の理由としては、わが国では手形の流通が諸外国に比して盛んです。手形割引こそ、売掛債権を証券化して流動化させているにほかならない方法です。まさにファクタリングの機能と重複していると考えても問題ありません。しかし、近年バブル経済崩壊を期に、実体経済以上の手形乱発による事故の影響により、手形を発行する企業が少なくなりました。バブル期に比して10分の1の発行枚数にまで落ち込んでいます。
第三には、債権譲渡の対抗要件具備が障害となっていました。1世紀前(明治29年)の民法起草時においては、今日のような大規模、高度化した商取引を予想できなかったため、個別特定の債権譲渡しか予定されていませんでした。民法467条のもとでは、債権譲渡を第三者に対抗するためには、確定日付ある証書によって通知をするかまたは承諾を得ておく必要があります。このような確定日付は、大口で発生回数の少ない債権ならまだしも、小口で煩雑におこなわれる債権には実務上対応できません。
債権譲渡特例法の創設と売掛債権担保融資
大規模化、高度化する実業界の要望から、ついに平成10年10月1日「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例に関する法律」(略して「債権譲渡特例法」)が施行されました。民法の対抗要件制度に加え、新たに登記による対抗要件が創設されたのです。これにより、集合債権譲渡担保による債権の流動化の道が開けたのです。
しかしながら、登記の期間についての争点が残りました。そもそも民法の債権譲渡は確定債権、つまり個々の特定された債権が譲渡される場合を想定したものであり将来債権譲渡は予定されていませんでしたが、実務上は極めて合理的ではありません。一応、将来債権譲渡の有効性に関する判例は、創設時には昭和53年12月15日判決の 1年間という短期間のものがありましたが、実務上1年間はまだ短いものでした。ところが、平成11年1月29日最高裁は画期的な判決を下しました。8年 3ヶ月の将来債権の有効性を認めたのです。
現在、実務界では5年程度の登記が一般的になっています。これを受けて、平成12年5月弊社株式会社ガリアプラスは「売掛債権担保融資システム」の特許出願(現在審査請求中)をおこないました。そして同年10月、国内では初めて、売掛債権担保融資を商品化しました。遅れること約一年、平成13年12月 17日、売掛債権担保融資保証制度が創設されました。信用保証協会の保証を活用した売掛債権担保融資のスキームです。平成14年5月にはリコーリースも売掛債権担保融資の商品化を発表するなど金融機関、ノンバンクが売掛債権担保融資スキームを商品化し始めました。さらに平成17年10月1日には「債権譲渡特例法」が「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(略して「動産・債権譲渡特例法」)に改正され、懸案の将来債権譲渡についても登記ができるようになったばかりでなく、動産譲渡登記制度も導入されるなど、売掛債権のみならず棚卸在庫なども含めた流動資産担保融資の時代がようやく日本でも到来しました。
売掛債権担保融資の問題点と提言
このように売掛債権を裏付けとして資金調達をおこなう、債権流動化のための法的環境が整備されました。しかし、実務上解決しなければならない売掛債権担保融資にかかる問題点がありました。その障害要因は以下の二点に集約されます。
- 債権譲渡を利用した資金調達は、好ましからざる事とみなされる。
- 世界的に見ても少数派の「債権譲渡禁止特約」の存在。(「債権譲渡禁止特約」を締結している売掛債権は、譲渡登記したとしても登記した債権者は悪意とみなされ、善意の第三者に対抗できないことになる。)
まず第一点目ですが、この解決方法は欧米の売掛債権担保融資およびファクタリングの歴史に学ぶところが多いのではないでしょうか。欧米においても、売掛債権を譲渡して資金調達するにあたり、クライアントの心理的抵抗が強かった事は事実です。これに対して、当時の欧米の金融会社は種々の啓蒙活動をおこない、公然の売掛債権譲渡に対する取引界の観念を変えることに成功しました。わが国においては手形割引という売掛債権の売買を堂々とおこなう素地があります。裸の売掛債権が悪くて、なぜ手形割引なら良いのでしょう。企業側の意識を変える必要があります。
次に金融機関を初めとする与信側の意識です。与信側は債権譲渡特例法が施行されてから、与信のための登記ではなく、企業の危殆(きたい)時に保全のための登記をおこなっていました。よって、債権譲渡先は自ずと倒産する事例が多くなっていきました。さらに信用情報機関は、登記の事実をもって評点を下げるようになり、悪循環を繰り返すようになりました。平成13年12月、経済産業省が主導する売掛債権担保融資保証制度が創設されてから、登記に対する考え方が若干受け入れられるようになってきたことも事実です。
結論としては企業および与信側の売掛債権譲渡が公然とおこなわれることは、企業活動にとって欠くべからず事であるという意識を啓蒙していくことが急務なのです。
次に第二点目の「債権譲渡禁止特約」の存在です。現在この特約は、国際商法上においても無効であるとの見解が出ています。この問題についても経済産業省主導のもと動きはありますが、わが国に根付いた商慣習は一朝一夕には改まりません。立法措置でこの特約を無効にするか、各業界毎にこの特約を解除していくか、いずれにしてもこの問題の解決は急務です。
弊社が提唱するガリアソリューションにもあるとおり、中小企業の新たな資金調達、最後に残された調達手段、売掛債権担保融資を発展させることは、閉塞した日本経済の再生にも繋がる重要なスキームであり、日本経済にビルトインさせるべきなのです。


※参考文献
「ファクタリング取引の法理論」田邊光政著
「債権譲渡担保マニュアル」商事法務研究会



